Ccrosstalk
2015.03.29

暮らしかた冒険家 meets

volume 2世界一有名な地域通貨「イサカアワー」が教えてくれた意外なこと

  • Text伊藤 菜衣子, 池田 秀紀
  • Photo伊藤 菜衣子

〈前編〉「お金」の裏に隠れてしまった大切なこと

かれこれ2年前のこと。2013年、暮らしかた冒険家は「お金」について考えていました。「お金」が無いと生きていけないというけれど本当か?ある程度お金は必要だとしても、お金をたくさん持っている人が必ずしも幸せには見えないのはなぜか?だとしたらお金はいったいどれくらいあれば足りるのか?お金でモノを買うというのは、お金とモノの「交換」に過ぎないのだから、別の手段で交換できればお金は必要ないのでは?交換の原始的な姿には「物々交換」があるが、果たして21世紀となった今、それ以外にはないのだろうか?などなど。 物々交換という原始的な交換。お金による売買という便利な交換。どちらにもメリット・デメリットがある。(いや、物々交換はめんどくさくて現実的ではないという考えが普通かもしれない)そんなとき、「地域通貨」のことを思い出した。よく地域活性化で耳にも目にもするけれどいまいちパッとしないしピンとこなかった地域通貨。実はその間のいいとこどりな存在なのではないか――。そんな仮説を検証するために、「エンデの遺言」にも登場する地域通貨「イサカアワー」で有名なニューヨーク州の片田舎イサカまで、何のアテもなく、ひとっ飛びしてきました。 イサカについて知っていたことは、アイビーリーグのコーネル大学があること、労働でしか買えない自転車屋さんがあるらしいこと、「イサカアワー」、それだけでした。今にして思えば、ずいぶん思い切った旅です。 ですが地域通貨については想定外な結末が...。だけど、代わりの収穫として、ファーマーズマーケット、エコビレッジ、CSA(Community Supported Agriculture)などの想像を超えるスケールの試みたち。そのおもしろさに、考えること、憧れることがたくさん。資本主義、大量消費・大量生産、個人主義が進むアメリカだからこそ、その対極にあるロハスでグリーンでDIYな営み。イサカのツアーレポート、マストチェックです。

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物技交換 ―― ウェブサイトをつくる替わりに、熊本のボシドラ農園の佐藤くんから季節の野菜や自分で仕留めた猪肉が届いた。

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物技交換 ―― ウェブサイトをつくる替わりに、熊本のボシドラ農園の佐藤くんから季節の野菜や自分で仕留めた猪肉が届いた。 http://boshidora.com/

わたしたちは「交換」しながら生きている

ウェブサイト製作と農作物一生分を「物技交換」したことから始まった、交換の冒険。「お金」は最も便利な交換媒体ですが、あまりに便利すぎるがゆえに、気がつかぬ間に、失ったこともあるんだなぁ、そんなことを感じたりもするのです。

たとえば、ギャラの野菜を持って、農家の佐藤くんが直々にやって来て、いろいろ説明してくれる。季節のこと、農業のこと、集落のおじいちゃんのこと。届くのは野菜だけでなくそこにまつわるいろいろな情報までもが。人の手から手へ直接交換することで、今まで見えていなかったものや見過ごしていたものが見えるようになった。それは逆に言えば、お店で買っていたときには、どこかに置いてきぼりになっていたものたち。

「お金」を介さない交換のほうが得られるものが多い。もちろん交換の手間はお金の何倍もかかります。では、より純粋な「交換」の性質を帯びた「地域通貨」はそのいいとこ取りができるのでは?私たちのまだ見ぬ新しい「お金」の関係があるのではないか。地域通貨について俄然、興味がわきます。

世界一有名な地域通貨に会いに行く

ドルや円などの「お金」に変わる交換ツールに「地域通貨」という存在があるのは知っていましたが、ちょっと半信半疑。なぜなら国内で出会う地域通貨はことごとく上手くいっていないから。ということで、世界一有名な地域通貨「イサカアワー」を見に行こう!となんのツテもなく、ニューヨーク州のイサカにひとっ飛び。

世界一有名な地域通貨なので、イサカに行けば、どこででも目にすることができるに違いない。そう信じてやまず、イサカ空港に降り立った。そして、ファーマーズマーケットに行けば、「イサカアワー」が飛び交っているに違いない。またまた信じて、レンタカーで直行した。

地域通貨「イサカアワー」の現在

ところがどっこい、飛び交っているのは“ドル札”…!まったくの想定外の結果に動揺しつつも、仕方がないので、聞き込み調査。ファーマーズマーケットのインフォメーションで聞いてみるが「最近は見かけないね」と。

m5_130727-25 さらに、ドレッドとタトゥーできっとヒッピー的っぽい石けんを売っている出展者カップルに聞いてみると「コンセプトはいいんだけどね。イサカアワーじゃ保険も家賃も払えないから」という超現実的な意見。

m5_130727-16 そして、使われているかもしれない場所として教えてもらったスーパーマーケット「GREEN STAR COOP」に行ってみた。が、やはりここでももう、ほとんど使われていないそうだ。

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M5_heytour_1306-4 地域通貨のふるさとを訪ねて2500里も来たというのに、使われてないとは、、、!!!一体全体どうしてそうなった?!その訳を聞いてみた。

「地域通貨はそもそも使える場所が限られていて。それでもイサカでは使える店は結構あるんほうなんです。でも光熱費や家賃、税金も払えない。それでみんなどうするかというと、買いたいものが多くある店に行って使う。そうするとその人気のあるお店に地域通貨が溜まってしまうんです。」

GREEN STAR COOPの店員はそう語る。そもそも地域通貨のコンセプトには、貨幣のデメリットを回避するための「循環」「無利子」という原則がある。けれども「イサカアワー」は人気のお店に溜まってしまって、循環しないという現象が起きてしまった。

富める者はますます富み、貧しい者はますます貧しくなる。それは貨幣という交換ツールが変わったところで変わらないということがわかった。大切なことは、ひとのつながりを見つめなおし、作りだし、深めていくことであって、ドルや円に変わる「お金」をつくることではないのかもしれない。あくまでもツールなのだから。

 

(後編に続く)

 

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